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ナカダヲ タノシク オモシロク~NPO法人なかだ倶楽部~

  金山町中田(なかだ)は、杉沢・外沢・上中田・下中田・小蝉の5つの集落から成る、人口290人弱の山間の地区です。人口減少により金山町立中田小学校は平成25年度(2014年3月)をもって閉校し、地区には学校がなくなりました。

  全国各地でこうした流れが加速する中、「地域はこれからどうあるべきか?」の深刻な問いが住民たちに投げかけられています。「これまで地域にあったはずの当たり前のコミュニケーションが途絶え、伝統的に守られてきた文化の灯が消えてしまうかもしれない」など、更なる課題がすぐそこまで押し寄せてきています。そんな激流に正面から立ち向かおうとしている者たちが「NPO法人なかだ倶楽部」の面々です。

法人設立の選択

 「ナカダ ヲ タノシク オモシロク」の合言葉のとおり、自分たちが生まれ育った地域を、自分たちの手で面白くし、住民みんなが楽しいといえるような地域にする、という目標を掲げ日々奔走しているNPO法人なかだ倶楽部ですが、「旧中田小学校利活用検討委員会」、「NPO法人なかだ倶楽部設立準備委員会」を経て、平成27年4月にNPO法人設立となりました。新たな地域自治を目指し、夢高らかにスタートを切った、とも言えますが、何をするにも初めての取り組みに、戸惑う住民も多かったと言います。「どうせそんなこと始めたって…」という人もいれば、「そういうのは若い人たちでやって…」という人も。何度も諦めたくなる中で、町の協力も得ながら住民への説明会を重ねていったそうです。そのプロセスだけでも数え上げればきりがないほどのドラマがあったことでしょう。それでもメンバーとして立ち上がった面々は、今まで地区の大先輩方に地域の色々を任せていた時には気が付かなかった課題や困難も覚悟して、「自分たちが今何かしなければならない」との思いに駆られたのではないでしょうか?「誰かが動かなければ決して変わらない」、「漠然とした不安を抱えて文句を吐いて暮らすより、知恵を出し合って地域のために動く」そのために、NPO法人として活動していくことを選択した人々のストーリーをここに紹介していきます。

「やりがい」を感じられる暮らし

 さかのぼること10年前、この地区にはおよそ400人が暮らしていたそうです。しかし、現在は300人を切ってしまいました。高校卒業後に進学や就職で他の地域に出たっきりそのまま地元に戻らない若者が多いのが現実です。そのため地区人口のうち高齢者が占める割合は年々増え、更に10年後、20年度にはどこまで住民が減ってしまうのか…と考えると、心細くなっていくのは当然のことです。しかしその反面、Uターンで戻った者がいたり、地域おこし協力隊退任後にこの町に定住を決めた者もいます。潜在的に地元に戻りたいと考えている層も少なくないのかもしれません。

 昨年度実施されたある調査では、首都圏在住の地方出身者10代~40代のうち「地元に戻りたいし戻る可能性がある」と答えた人の割合は37%、「戻りたいが戻る予定はたっていない」という人が14%、「戻りたいわけではないが戻らなければいけない」という人の割合が3%、…という結果があります。(株式会社キャリアクリエイト作成『やまがたUターン白書2017』P9より抜粋)Uターン、Iターンを決める時に何を重要視するかは人それぞれですが、その条件に「仕事」が挙げられるのは当然のことです。しかし、「仕事」に対する価値観も多様化し、例えば、高収入を良い仕事の基準と考える人、会社の知名度や安定が最優先の人、休日が多い・急な休みを取りやすいことを重要と考える人もいます。そして、自分自身の「やりがい」や「居場所」、「繋がり」を感じられる仕事を求めているという若者も少なくないといいます。 

 なかだ倶楽部のメンバーは、中田での暮らしを満喫し、地域の未来を作っているというプライドを持って仕事や地域活動に取り組む生き方を見せてくれます。今の時代の「カッコイイ!」がココにはあると言っても過言ではありません。

 このNPOを率いるのが、栗田伸一理事長で、彼もまた一度は進学や就職で地元を離れた経験を持っています。彼の行動にはいつも信念が宿り、「無いものは作ればいい、わからなければ学べばいい、『できない』と弱音を吐くよりもできるまで努力すればいい」というもの。「目の前の壁は越えるためにある、困難さえも楽しんでしまおう」というスタンスが、なかだ倶楽部の活動の根っこにあると感じます。この彼の熱さや純粋さに惹かれて、活動を共にする仲間は少なくないはずです。メンバーの信頼関係やそれぞれの得意分野で発揮される存在感は、前段で触れた「やりがい・居場所・繋がり」のキーワードに、まさに『ビンゴ!』と言えるのものではないかと感じます。

地域づくりは「誰もが主役」

 栗田理事長のリーダーシップもさることながら、彼一人がスーパーマンになれば解決する問題ばかりではありません。なかだ倶楽部の活動記録を発信しているSNSには、「どうしてこんなにみんなが楽しそうなんだ?」と思うような写真が並びます。メンバーたちが惜しげもなく汗をかき動いている様子を見るだけで、誰もが中田ファンになってしまうと思います。

 皆で練習し花笠まつりに参加、酒を酌み交わしアイディアをぶつけ合いながら、廃校施設でイベントを開催、時には“中田バンド”でまつりや学校の文化祭へ参加、またある時は汗だくで太陽光パネルの設置、蔵の改修、雪かき、林業部の活動、などなど、実に中田地区らしい、なかだ倶楽部ならではの活動がここにあります。その、クタクタになる姿も赤い顔も、緊張の場面も、写真を撮られていることさえ忘れて夢中になる姿も、まるで子どもの頃に近所の友だちと暗くなるまで遊んだ少年少女時代のようにさえ見えてきます。

 地域づくりに一番必要なもの、それは「誰もが主役」ということ。参加する人が増えれば増えるほど、地域はより良く回っていくはず。そんなことに気付かされる彼らの活動は、「やらされる」のではなく、「自ら楽しんでやる」というものです。もしかすると、これこそが困難を乗り越える底力となっているのかもしれません。そして、そうした若者たちの熱意が今まで「どうせ…」と諦めてしまっていた人たちの心をも、きっと溶かしていくように思えてなりません。

活動者の本音

 地域運営には人手が必要な事柄も多く、今後は更になかだ倶楽部の面々が様々な分野でキーマンとなって多くの人を巻き込む役割を果たしていくことが求められてくるでしょう。大変な活動も、それぞれが自分の中に目標ややりがいを見つけて取り組んでいますが、それでも、それぞれに家庭や本業など、地域活動以外にも大切なものがあり、その都度葛藤しているのも事実です。ちょっとした心無い一言に心折れそうになることもあるでしょう。でも、何気ない住民の声掛けが、他の何にも代えがたいパワーとなって明日を頑張る活力になっていることが分かります。イベントで来場者が多かった時は心の中で『よっしゃぁ~!』と叫び、“中田バンド”で小学校校歌を歌った時の反響の良さに『やったー』の気持ちを噛みしめる、地域の人たちに「お前の頼みじゃ断れねぇな」と言われ『良かったぁ』と感じる。彼彼女たちにとって、こんな些細なことでも活動の根っこを太く強くする栄養になっていることを、一人でも多くの人に知ってほしい、と願わずにはいられません。

活動者の本音

 様々な地域づくり活動を展開するNPO法人なかだ倶楽部の事業の中でも、今年度新たな化学反応を目指して開催されたのが“もがみ地域理解プログラム・ジモト大学”です。去る10月11日、旧中田小学校を会場に、将来の地域を背負う高校生が参加して、地区住民とこれまで何度も重ねてきた「地域運営組織づくりのためのワークショップ」の場をプログラムのメインとしました。金山町在住の高校生19名、そのうち5名が中田地区在住の高校生です。地域の未来を考えることが自分自身の進むべき道を考えることにもつながる、特に地元での就職を希望している高校生は、切実な現状をどのように大人が解決していくかを目の当たりにすることによって、困難に向き合う姿勢を学ぶ絶好の機会となったようでした。地区区長さん・消防団の方・民生委員の方・農業関係者・婦人会の方・中田囃子若連・中田バンド・スポ少関係者等々、様々な立場の方々から積極的な意見が出される有意義な場となりました。

 こうした地域運営組織立上げのためのワークショップは、県内でも地域づくりの先進地として知られている「おきたまネットワークサポートセンター」のコンサルタントのもとで、国・県・町の強力なバックアップを受けながら現在進行形で取り組まれているもので、中田地区は「地域運営組織形成モデル事業」に選ばれている地域なのです。そのことを高校生にも自覚してもらえたことは、今後の中田地区にとって大きな一歩になったと言えるでしょう。

にんげんがっこう

 地元の人的資源を余すことなく活用し、学び合い語り合いながら、地域を「タノシク オモシロク」する企画がこの「にんげんがっこう」です。回を増すごとに試行錯誤を重ねた結果、実に興味深いコンテンツが並びました!今年度は去る11月11日、やまがた教育の日にあわせた開催となりましたが、「がっこう」や「教育」の名にふさわしい、味わい深い中田らしい学びと体験が盛りだくさんです。以前から繋がりのある東北芸術工科大学の学生など、外部の人材も上手に巻き込んで、いわば「よそ者」的な目線での地域のお宝磨きに余念がありません。ずっとこの場所で暮らしてきた住民からするとごく当たり前のことが、一旦ここを離れた者や外の人にとっては「ものすごくありがたいと思えるもの」だったり、「地域の宝として守るべきもの」と認識できたりするのです。

①カズエさんのつる細工教室

   材料は正に山の恵み、地域資源の最たるところです。こちらを使って、花結び編みに挑戦。参加者は女性が多く、それぞれ素敵なネックレスができたようです。

②みょんすんさんのチヂミ教室

 地域のお母さん方の「食と味」は大切で貴重な宝!。会場一帯がおいしそうな香りに包まれ、唾を飲み込む来場者も。材料完売、満員御礼だったようです。

③こうせいくんの五右衛門風呂体験

 こちらも山も恵みである薪で、どんどん熱が加えられます。熱すぎて足を入れるのがやっと?加水して温度調節するほど。開催日はあいにくの天気でしたが、寒い日にはこの湯気がたまりません。

④芸工大コラボ☆ストレッチ教室

  住民の健康は一番の宝、健康維持のためにはみんなで体を動かすことも大事ですね。旧中田小学校は体育館もあるので、普段はスポ少の活動や生涯スポーツの拠点としても活用されています。

⑤芸工大コラボ企画☆小さな図書館

 中田マダムおすすめの本を紹介したコーナーは、親しみのある手作りポップと紹介文で来場者が必ず立ち止まるスポットでした。人と人との繋がりもまたこの地域の素晴らしい宝です。

⑥芸工大コラボ企画☆竹リース・木のストラップつくり

 子どもたちに人気のコンテンツは、竹や木などを使ったアートコーナー。それぞれが工夫したりアイディアを出しあって、イメージは広がります。子どもたちの好奇心も立派な財産ですね。

   その他にも、芸工大生の卒業制作展として、中田地区の古老に話を聞いてまとめたタペストリーの展示は、一人ひとり膝をつきあわせて中田住民の想いをインタビューした、とても心のこもった作品展でした。時間をかけた分だけ、「中田が好きになる、中田の住民が好きになる」という制作者の心が感じられる作品の数々。

 また、芸工大 醍醐スタジオ2期生による「拝啓 残したい中田展」は、来場者に「手紙」という手法で地域への熱い想いを聞く、とても夢あふれる企画でした。これなら、普段あまり口にしていない気持ちを素直に書きとめることができるかもしれませんね。こういう参加の仕方もあるのだなぁと、また新たな可能性を感じる企画展となりました。

 現状維持をいくら願っても、変わっていくのが世の摂理なのだとすれば、相当な覚悟と努力なくして、「残したいものさえ守れない」時代が来ているのかもしれませんね。いつの時も、なかだ倶楽部のような面々が走ってくれることで、地域の資源は磨かれ輝くきっかけを持てるのだと思いました。

 最後に、自分たちの地域にも「こんな素晴らしい“つわものたち“がいる」ということをどうか誇りに思ってください。なかだ倶楽部が走り続ける限り、地域の未来はきっと変わっていきます。彼らの努力に豊かな堆肥を、温かい風を、清々しい水をどうか与えてください。

 活動の芽はまだまだ小さいかもしれませんが、きっと大輪の花を咲かせてくれるはずです。それには、住民みんなが主役の地域づくりが必要不可欠です。あなたが「土」になる人かもしれない、あなたが「風」になれる人かもしれない、あるいは、あなたが…。

 ぜひ一度、金山町中田地区に足をお運びください。なかだ倶楽部の面々と共に“ナカダヲタノシクオモシロク”していきましょう!

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