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昔語りのきこえるまち 新庄を全国に発信!~新庄民話の会~

 テレビやラジオ・オーディオの普及に伴って、年寄りが子どもに昔語りを聞かせて子守りをする、という時代ではなくなりました。そんな「昔語り」という文化が下火になりかけていた昭和61年、「新庄の民話を何とか守っていかなくては・・・」と、昔語りや民話の伝承・保護を目的にした団体がつくられることになりました。最上地域史研究の第一人者である大友儀助氏を初代会長に、「新庄民話の会」が結成されたのです。

 それから31年の月日が経ちました。インターネットの普及により更に情報ツールは発展を遂げ、時代は様変わりしました。・・・が、新庄には今も数百にのぼる民話が生きています。新庄民話の会は30年を超える活動を通して、県内外に「新庄の民話」をアピールしてきました。全国的に民話の里として有名な岩手県遠野市を目標に、追い付け追い越せで市内外に新庄・最上の昔語り文化をアピールしてきました。結成当時から「みちのく民話まつり」と銘打った語りの祭典を開き、7月には「七夕の昔語り」、近年では「子ども語りまつり」を2月に開催しています。

 こうして、地域に残る民話を後世に繋いでいこうと、子どもから大人、お年寄りや観光客にも「昔語りのきこえるまち 新庄」を合言葉に、その魅力を発信し続けています。JR新庄駅を出ると、駅前通りは「金の茶釜とおり」、大正町通りは「こぶとり爺さまとおり」、大町通りは「かわうそど狐とおり」、南本町通りは「鴨とり源五郎とおり」、北本町通りは「笠地蔵とおり」と5つの商店街通りに民話のモニュメントが設置されていて、街歩きを楽しみながら民話に触れる工夫が施されています。

 新庄・最上地域が民話の宝庫であるのは、その背景に豊かな自然と農村文化、特に働き盛りの親世代に代わって祖父母世代が子守りを担う昔ながらの生活スタイルが残ってきたからだと言われています。民話の中には、山・川・滝・沼・・・自然や大地の神々への畏敬の念、先人の経験や知恵や技への感謝の気持ちと学びが溢れています。この土地で生きていくための術や人としての心を教えてくれるのが民話なのです。

 昔はどこの家でも民話を語ることで、子どもたちにそうしたことを教え伝えてきました。つまり、昔語りはこの地域の風土や文化、人々の暮らしを色濃く反映する縮図のようなものなのです。

七夕の昔語り

 今年も新庄ふるさと歴史センターを会場に、「七夕の昔語り」が開催されました。七夕にちなんで、7月7日午後7時7分に開演した夏語りを7人の語り部がそれぞれとっておきの民話を披露しました。時にはユーモアに富んだ語り口調で会場が笑いに包まれたり、言葉の温かさが心地良い一時に導いてくれました。

七つのお話の中には、全国的に知られる童話「さるかにがっせん」や落語噺でも有名な「寿限無(じゅげむ)」の新庄・最上版ともいえる民話が登場します。どの語りがそれにあたるのか、お話を楽しんでお聞きください。

渡部豊子さんによる「雀の仇討ち」

 7人の語りの一番手は、新庄民話の会結成当時からの会員である渡部さん。渡部さんの昔語り活動は今や全国区、県内外お声がかかればどこへでも出かけて行って、新庄の民話の魅力を披露してきてくださいます。その活動は海を越えインドにまで。

 子どもたちへの語りの伝承にも力を入れており、平成26年度に閉校した新庄市立昭和小学校には15年もの間、毎週木曜日に昔語りの指導で訪れていたそうです。現在は新庄市立萩野学園の子どもたちへ昔語りを教えていらっしゃいます。

高橋愛子さんによる「かっぱのむがす(昔)」

 高橋さんはかっぱ(河童)のお話を語ってくださいました。優しい語り口調で、登場人物である働き者の兄とずるがしこい弟、河童のやりとりが目に浮かぶようです。方言やなまりも柔らかいので楽しんで聞くことができます。

鈴木敏子さんによる「まま(飯)かね(食わね)あねこ」

 民話にはストーリーの面白さだけでなく、聞いた者に教え諭す「教訓」が含まれています。このお話にもちゃんとありました。『~んだがら、まま(飯)かね(食わね)あねこ(奥さん)ほしいなんて、言わんねもんだど。』

新国玲子さんによる「香雲寺様(こううんじさま)のはなし」

 香雲寺様とは新庄のお殿様(戸沢家2代目藩主 戸沢正誠公)のことで、その武勇伝がたくさん出てくるお話を語ってくださいました。新庄・最上では聞き覚えのある地名が次々に飛び出します。

伊藤佐吉さんによる「長い名前」

 短い名前ではダメなので長い名前を子どもにつけたい、というストーリーはどこかで聞いたことがあるという方もいらっしゃいますよね?何となく知っているストーリーですが、佐吉爺の語りの真骨頂は、御年90歳とは思えない記憶力と口さばき。すらすら出てくる長~い名前が何度もリフレーンするたびに加速するので、「お見事」としか言いようがなく会場からは拍手があがります。実に愉快な語り、この雰囲気は佐吉さんにしか出せない味なのでしょう。

伊藤妙子さんによる「瓶の底ぬく一坊」

 伊藤さんの声は実にやさしく、目を閉じて聞けば、あら不思議!母や家族の温かさが感じられる魔法の語りといっても大袈裟ではありません。生国、村の名前、お坊さんの名前と、お話の後半はユーモア溢れる展開が聞きどころです。

 伊藤さんは新庄東高等学校Tコースの生徒たちへの昔語りの指導にも力を入れていらっしゃいます。

大竹智也子さんによる「鯉の地蔵様」

 冒頭から「後期高齢者の2人目です!歳とったら、歯治したり~あっちこっち修復しながら生きてます。」という自虐的なあいさつで昔語りをスタートさせましたが、本人の「聞きづらいがすんねげんと(聞きづらいかもしれないけれど)~」の言葉とはうらはらに、実に軽快にすすむ語りはベテランの貫録でお楽しみいただけます。

方言だからこそ表現できる民話

 なまりは故郷の土や風のにおいを感じさせます。新庄弁とか最上弁と言っても、住む地域によって微妙に言い回しやアクセント・語尾のなまりが違ってきます。新庄民話の会の長老 伊藤佐吉(いとうさきち)さんは仁田山(にたやま)なまり、渡部豊子(わたべとよこ)さんは萩野なまり、等々、語り部さんたちは、一人ひとりが実に個性的で、土地の方言を巧みに操って語ります。みんなそれぞれ唯一無二で、それぞれ自分の経験や生き方が語りにも反映されているのですから、一度は生で聞いてほしい人たちばかりです。

 以前、「良い民話は時代を越えて残っていく」と、新庄・最上の民話にお墨付きをくださったのは、國學院大學名誉教授で口承文芸学研究の権威である故 野村純一先生でした。野村先生は若い頃、新庄市萩野に何年も通い、「笛吹き聟(むこ)― 最上の昔話」を出版しました。それもあって、民話や民俗学に関わる人たちの間では、新庄・最上が民話の里だということを知らない人はいないほどなのだそうです。

「これならわかるじゅ新庄弁」や「新・新庄弁方言番付表」という方言の解説虎の巻も発行されているので、参考にしながら昔語りをお楽しみください。

 びっき→蛙  べご→うし   へんつ→便所  へげ→堰  へやみ→怠け者

 はいっとう→ごめんください  あべ→行こう  けぇ→食え  でんび→額

 かっちゃする→反対(裏返し・さかさま)にする  ぶじょほする→失礼する

 ちょすます→いじりまわす  ぼっこす・ぼじょごす→壊す  がおる→弱る

など、語源がわかるもの・わからないもの、聞けば聞くほど奥が深い、方言の魅力を楽しむことができるのも昔語りの良さの一つです。

隔世伝承(かくせいでんしょう)と子ども語り

 「昔語り」は主に、年寄りが子どもたちに子守りの一環で日常的に語られてきたものなのです。民話にはストーリーの面白さだけでなく、話の裏に大なり小なり教訓が見え隠れしています。家族や周囲への感謝と相手を思う気持ちを伝えるのに、祖父母たちは愛情とユーモアたっぷりに語ることで、子どもたちは教えを素直に受け止めることができるのです。親からのしつけや教えは直接的なのに対して、祖父母からの昔語りの場合は物語の中の登場人物に現状をなぞらえて間接的に伝えることで、子どもたちは感情を抑えて冷静に聞くことができ、想像力を働かせて内容の根っこを捉えることができるのです。自分たちとお話の登場人物にどんな共通点があるかを自ら悟ります。だからこそ、伝わるものも大きいのではないでしょうか?

 こうした祖父母から孫への昔語りは、「隔世伝承」というもので、一世代またいで伝えられていくものなのですが、現代は核家族化が進み、小さい子どもを持つ20代~40代ぐらいの親世代は、子どもの頃に祖父母から昔語りを聞いて育っていない人も多くなってきました。だからこそ、新庄民話の会の活動では、新庄市内の小学校や施設などに出向き、子どもたちに昔語りをして聞かせ、「子ども語り部」を育てる活動に力を入れてきたのです。家で日常的に民話を聞かなくなった現代においても、祖父母世代が子どもたちの将来を思う気持ちは変わりません。だからこそ、知っておいてほしい、考えてほしい。自分が生まれた土地に脈々と受け継がれてきた先人たちの知恵や教訓を。

 新庄市立北辰小学校・新庄小学校・本合海小学校・萩野学園、新庄東高等学校Tコースなどの児童生徒への昔語り指導を精力的に行ってきました。小中一貫校 萩野学園の開校に伴って平成27年3月で閉校した新庄市立昭和小学校へ昔語り指導に訪れていた、渡部豊子(わたべとよこ)さんにお話をうかがいました。

閉校するまで約15年通ったの。今日で最後の日っていう時に、大きくなった卒業生の子が花束を持って来てくれた時は嬉しかったねぇ。最初に教えた子たちなんか大きくなって、結婚して子どもいる人もいるっていうんだから、時間の流れを感じたよね。でも、みんな昔語りが好きな子たちで、語り始めるとつんのめる(前のめりになる)みたいにして、真剣に聞いてくれた子たちだったけど、この経験が頭のどこかに引っかかって、自分たちの子どもやそのまた子どもを教え諭す時に役に立てばいいなぁと思うね。」とこれまでの活動を振り返りました。

「第32回みちのく民話まつり~いろり端で聴く新庄・最上の昔話~」

 民話まつりの会場となるのは、江戸時代中期に建築されたと推定される「まや中門(片中間)造り」という中農住宅「旧矢作家住宅(国指定重要文化財)」です。囲炉裏を囲んで、新庄・最上に残る昔話に耳を傾けると、子どもの頃の遠い記憶が鮮やかによみがえるようです。

開催の様子はコチラをご覧ください。

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