手作りされた物を通して人と人が触れあう場所~kitokitoマルシェ~
山形県新庄市で開催される市民参画型のプロジェクト「Kitokitoマルシェ」。
5月から11月までの第三日曜日に開催される。
その舞台となるのは、昭和初期に建てられた新庄市エコロジーガーデン(旧蚕糸試験場新庄支場)。
どこか懐かしい雰囲気を漂わせる建物内と、大きな木々で囲まれゆっくりとした時間が流れる広場。
その両方がこの第三日曜日になると老若男女さまざまな声であふれかえる。
このキトキトマルシェを運営しているのは、地域の若者を中心としたプロジェクトメンバーたち。
聞くと、それぞれが休日のなかボランティアとして運営に携わっているとのことだ。
ボランティア中心では運営が大変なのでは、と一瞬頭をよぎったが、
なんと日を増すごとにそのスタッフ数は増え続けているという。
キトキトマルシェのスタッフとして働く原動力とはいったい何かー。
開催当日の1日を密着した。
【キトキトマルシェ、準備】
スタッフの集合時間となる朝8時。
10時のオープンに向けて準備はここから始まる。
ただ、この日はあいにくの雨。
開催ができるのか気になったスタッフは朝4時から天候を見守っていたという。
「初開催から4年目にして、こんなにも降られたのは初めてだ」と運営スタッフの吉野さん。
みなさん不安の中かと思いきや、スタッフミーティングは和やかな雰囲気で進んでいく。
この大雨の中でも、雨天中止の言葉は出てこない。
「まぁ、そのうちやむべ。」
…ん?天気予報は一日雨だったような…
それでも、そんな根拠もない一言になぜかみなさんがうなずく。
「よし、やるか」の一言で、ためらうことなく土砂降りの中へ向かっていった。
出店者、来場客のために用意されたテントを設置。
ちなみに、この木製の屋根付きテーブルはスタッフが休日を使って手作りしたもの。
その他、ベンチから、ブランコ、ウッドデッキまで、この空間には手作りでできたものがたくさんある。
そして9時、キトキトマルシェの看板が飾られる。
【キトキトマルシェ、出店者】
キトキトマルシェの看板が飾られると、それが合図かのように出店者が続々と来場する。
キトキトマルシェの開催テーマは毎回異なる。
今回のテーマは「パンまつり」だ。
毎回たくさんの来場者が押し寄せる人気テーマとなっている。
そして出店者は、その来場者の期待を知ってか、「これでもか」とたくさんのパンを運び込む。
たちまち甘く香ばしい香りに包まれる。
パン以外にも、地元で採れたはちみつやわら細工など、この地域ならではの商品が並べられる。
どれもスーパーなどでは見られない、手作りで愛らしいものばかりだ。
【キトキトマルシェ、オープン!】
そして10時、キトキトマルシェがオープン。
駐車場に車が次々とやってくる。
他県ナンバーの車も多く来ており、人気の高さが伺える。
そして、駐車場からキトキトマルシェ会場に戻ると、さっきまで見ていた光景が一変していた。
「うおっ!」
思わず声が出てしまった。
子供から大人まで、たくさんの声。
あまりの変わり様に少しの間この様子を見入ってしまった。
しかし、このお客さんの入りように出店者のみなさんのことが心配になってきた。
さぞ忙しく険しい顔つきになっているのか、とおそるおそる出店者の顔をのぞいてみると…
・・・あれ?
みなさん、険しいどころか、笑顔。
そして1人ひとり、来場者との会話を楽しんでいるよう。
出店者のみなさんは一人ひとりが生産者や加工者。
さぞ並べられている商品は我が子のようにかわいいのだろう。
その商品に対する熱い想いがきっかけで、お客さんとの会話がはずんでいるようだ。
そんなこんなしている内に、私にも熱い想いをもった出店者との出会いが!
この手のひらサイズを超える大きな芋は、新丹丸(しんたんまる)というつくね芋の一種とのこと。
「ねばりけつえくてよー、すってごはんさでもかげでくうど、ほれこそうめんだーげ!」
(粘り気が強いから、すりおろしてご飯にかけて食べるととてもおいしいよ!)
この一言から会話が弾み約10分。
いつの間にか新丹丸が入ったビニール袋が私の左手に握りしめられていた。
このキトキトマルシェを見渡してみると、スーパーやコンビニなどでよく見かける、紙幣と商品との物々交換だけの様子は全く見られなかった。
自分の商品がお客さんとのコミュニケーションツールとなって、会話に花が咲く。
出店者は、商品が売れることはもちろんうれしいことだろうが、何よりお客さんとの「つながり」を大切にしたい、そのような想いが伝わってきた。
【その時、スタッフはー】
あるスタッフは、雨の中来場してくれたお客さんを想い、たき火を用意。
あるスタッフは、屋内の暗い場所を見つけてライトを設置。
そしてコードがお客さんの足に引っかからないようにテープで補強。
ある駐車場のスタッフは、雨の中続々とやってくる自動車に満面の笑顔で対応。
スタッフそれぞれが細かなところまで気を配り、来場客を自分自身のやり方でおもてなしする。
その行動ができるのは、一人ひとりがヒトとヒトとのつながりが生まれるこの空間の大切さを、自分の肌で理解しているからだろう。
この空間でヒトとヒトとのつながり、笑顔が生まれる。
そのことに「やりがい」を感じるスタッフがいる。
その好循環がキトキトマルシェを飛び越え、まち全体に影響を与える。
それがスタッフの増加など、より大きな好循環を生み出すことになるのだろう。
午後3時。この日のキトキトマルシェが終了。
ふと空を見上げると、いつのまにか雨は上がり、すがすがしい青い空が顔をのぞかせていた。
【スタッフより一言】
「買うだけじゃない。売るだけじゃない。手作りされた物を通して人と人が触れあう場所。そして時間。」
これがキトキトマルシェのテーマです。
この「キトキト」という言葉は蚕やアオムシが葉っぱの上をゆっくりと歩く様子を表しているお国ことばです。お客様にゆっくりとした休日を過ごしてほしい、そしてこのプロジェクトがゆっくりと一歩一歩、着実に歩んでいきたいという想いが込められています。
近年よく見かけられる「大量生産」や「大量消費」ではない、身近にある「食」や暮らしの中にある「手しごと」、失われつつある「つながり」の価値観を自分の肌で感じてもらうこと、そして地方での暮らしを楽しむことを実感してもらえたらと思っています。